第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
(……っ、どうして?)
焦りで心臓がうるさい。
迫り来る別の泥の腕を小太刀で斬り払い、もう一度念じる。
(もう一回……!)
もう一度、意識を寄せる。
手を握って、願って――
花弁が数枚、舞い上がる。
……けれど、またすぐに散ってしまう。
『ガ……ァ……ッ』
呪霊の横薙ぎの攻撃が迫る。
咄嗟に小太刀を盾にして防ぐが、身体ごと弾き飛ばされた。
「……っ!」
泥の中を転がって、背中に鈍い痛みが走った。
息が抜ける。
視界が揺れて、泥が口の端に入る。
それでも、這いつくばるようにして立ち上がった。
(お願い、花冠を作って……っ。お願い……!)
何度も、何度も手を握って意識する。
でも、だめだ。
送りたいのに。
「……なんで」
声が掠れて、自分でも情けない。
視界が滲んでくる。
涙が邪魔で、呪霊の輪郭が揺れる。
(泣いたって、どうしようもないのに……)
自分の弱さに?
虎杖くんを傷つけてしまったこと?
送れないことの悔しさ?
――それとも、送るのが怖いから?
答えが出る前に、涙が溢れていた。
泥だらけの頬を伝って落ちて、地面に吸い込まれる。
制服の胸元をぎゅっと掴んだ。
「悠蓮! 力を貸してっ……!」
この内側の、もっと深いところにいるはずの『彼女』へ。
すがりつくように、叫んだ。
それでも、力は応えてくれない。
泣き叫びながら、もう一度斬り込もうと泥を蹴った、その時。
ぬかるんだ泥に深く足を取られ、体勢が大きく崩れた。
倒れ込んだ私の頭上に、巨大な影が落ちる。
ひしゃげた鉄骨を巻き込んだ、肉の塊。
泥と粘液が、ぽたぽた落ちて。
呪霊が私を完全に押し潰そうとした、その瞬間――