第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
少なくとも虎杖くんの足は元通りになって、彼は助かるかもしれない。
(……いや、そんなのだめだ)
まず、虎杖くんが絶対に許さないし。
呪いの王の言葉を信じて頼るなんて、あり得ない。
なら、答えはひとつしかない。
泥の中に落ちていた小太刀に、手を伸ばす。
冷たくて重い柄を、震える両手でぎゅっと握りしめた。
「虎杖くんは、ここにいて」
「!?」
虎杖くんの制止の声には振り返らず、立ち上がった。
そして、迫ってくる呪霊へと向き直る。
「こいっ!」
気合いを入れるみたいに叫んで、前へ踏み出した。
(送れば……私が、送ればいいだけ)
そうすれば、この戦いは終わる。
二人とも、助かる。
もう、これ以上虎杖くんを傷つけないで済む。
最悪私が死んでも、時間稼ぎにはなるはず。
その間に、先生たちが気づいて助けに来てくれるかもしれない。
柄を握り直して、刃先を固定した。
(送る。絶対に、送る……っ)
必死にそう自分に言い聞かせて、奥歯を強く噛み締める。
『ギ……ヂ……ァ……ッ!』
巨大な泥の腕が、頭上から叩きつけられた。
空気が割れるみたいな圧。
反射で身体が縮む。
「……っ!」
間一髪で横に飛び退き、そのまま勢いよく泥を蹴って呪霊の懐へと飛び込んだ。
握りしめた呪具の小太刀を、ぶよぶよとした青白い肉体へ向けて力一杯振り抜く。
ザシュッ!
あらかじめ込められている呪力が刃から弾け、分厚い肉を深く裂いた。
どろりとした嫌な感触が手に伝わってくる。
鼻を突く悪臭に、思わず息が止まりそうになる。
(今しかない……っ!)
小太刀を逆手に持ち替える。
祈るように意識を集中させて、もう一度掌の奥に“あの温かさ”を探す。
すると、呪霊の周りから花弁がふわりと宙に舞った。
(……!)
来た。
このまま送れる。
そう思ったのに。
花は花冠にならずに。
ふっと、雪みたいに溶けて消えていった。