第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
頭から離れない。
離れてくれない。
手のひらに集まりかけていた温かい感覚が、急速に冷えて消えていく。
どうしても、その先へ進めない。
(ごめんなさい……ごめんなさい)
その言葉は、誰に向けた言葉なのかも分からないまま。
無意識に、一歩後ずさっていた。
「、離れろ!」
突然、虎杖くんの叫び声が聞こえた。
(……え?)
顔を上げた瞬間、視界が黒く塗りつぶされる。
呪霊の巨大な肉塊の一部――赤茶けた泥の塊が、私に向かって真っ直ぐ振り下ろされてきていた。
避けなきゃ。
頭では分かっているのに、身体が動かない。
足が、泥に浸かったみたいに重い。
(やられるっ……!)
その時だった。
ドンッ!
強い衝撃とともに、身体が横に突き飛ばされた。
「うっ……!」
鈍い、肉が潰れるような音と。
虎杖くんの苦しむ声が、すぐ近くで響いた。
「……え?」
跳ね起きるようにして、顔を向ける。
そこには、私を庇うようにして倒れる虎杖くんの姿があった。
肩で荒く息をしている。
彼の右足。
そのふくらはぎを、呪霊の放った瓦礫の塊が深くえぐっていた。
制服のズボンが裂け、赤黒い血がどくどくと泥の中に流れ出している。
泥が、一瞬で濃い赤色に染まっていった。
(……あ)
頭の中が真っ白になる。
手足の先から、血の気が引いていくのがわかった。
虎杖くんは顔を激しく歪めながらも、私の方を振り返って叫んだ。
「! 怪我ねーか!?」
「……虎杖、くん……」
声が震える。
視界が、ぐらぐらと揺れた。
私が怪我をさせた。
私のせいで、仲間が傷ついた。
(どうしよう。どうしよう……っ)
急いで虎杖くんのそばに駆け寄った。
両手で、裂けたズボンの上から傷口を強く押さえる。
「ごめん……ごめんなさい、私……っ」
ドクドクと嫌な脈打ちが手のひらに伝わってくる。
指の隙間から、温かくて赤い血がとめどなく溢れ出していた。
どれだけ体重をかけて圧迫しても、血が止まらない。