第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
「――っ、きゃ……!」
突然、足首をだれかに掴まれた。
視界が反転して、泥の中へ叩き落とされる。
何も見えない。
冷たい泥が、全身にまとわりつく。
重い。動けない。
(……ちがう。これは、魂の記憶)
それなのに。
息を吸おうとして口を開くが、泥が喉に流れ込む。
「……っ、あ……!」
咳き込もうとしても、胸が動かない。
息ができない。
(……くる、しい)
生きたまま土の下に埋もれ、少しずつ酸素が足りなくなっていく。
自分の体温が冷たい土に奪われて。
声も出せない。
助けも呼べない。
一人きりで暗闇の中で息絶えていく孤独と絶望。
薄れていく意識の中で、ふっと思ってしまった。
(……お父さんも、お母さんも。こうだった?)
違う。
これは、ここで亡くなった人のもの。
お父さんとお母さんじゃない。
頭ではわかっているのに。
暗闇の中に、二人の背中が浮かぶ。
手を伸ばしても届かない距離。
(行かないで……)
振り返ってくれないまま、どこかへ遠ざかっていく背中。
この魂を送るってことは。
(私が、終わらせるってことだ)
まだ生きているかもしれない。
まだ、どこかにいるかもしれない。
そんな希望を、私が自分の手で潰すみたいで。
本当に送って……いいの?
突如、冷たい空気が一気に肺へ流れ込んできた。
「っ、げほっ……!」
泥なんて入ってない。
なのに喉が勝手にひくついて、咳が漏れる。
涙が滲む視界の端で、虎杖くんが呪霊と殴り合っていた。
(……やらなきゃ)
虎杖くんが必死に隙を作ってくれているのに。
震える指先に無理やり力を込めて。
もう一度、小太刀の柄を強く握り直す。
逃げちゃだめだ。
もう一度、集中して――
(――っ)
だめ。
『』
お母さんの優しい声が、耳のすぐそばで囁いた気がした。
手を繋いでくれたお父さんのあたたかい手の感触が、掌に蘇る。
二人の笑った顔が、まぶしいくらい鮮明に浮かぶ。
(……だめ、だめだめ。考えちゃだめ)