第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
「――――逕庭拳」
虎杖くんの拳が、呪霊の分厚い肉体にめり込む。
青い火花のような呪力が弾け、ぐちゃりと嫌な音が響いた。
『ギ……ジャ……ァ……ッ!!』
巨大な頭蓋骨が大きく揺れる。
呪霊の丸太のような太さの腕が、虎杖くんを薙ぎ払おうと迫った。
でも、虎杖くんは驚異的な身体能力でひらりとかわし、空中で身を翻して別の角度から蹴りを叩き込む。
「こっちだ! 俺が相手だ!」
大きく声を上げながら、呪霊の注意を完全に自分へと引きつけてくれている。
その間に、私はぬかるむ泥に足を取られないよう必死に走った。
呪霊の背後、死角へ回り込む。
(今だ……!)
距離は数メートルもない。
立ち止まり、小太刀を両手で握り直した。
深く息を吐いて、目を閉じる。
(あの時みたいに)
ユウナちゃんを送った、あの光。
白い花弁が、風もないのに集まって。
冠になった、あの“あたたかい”感覚を探した――その瞬間。
視界が、ぐにゃりと歪んだ。
――ザーッ。
叩きつけるような水音がする。
目を開けると、視界を遮るほどの土砂降りだった。
(……すごい、雨)
濡れた制服が肌に張りついて、体温を奪っていく。
雨の匂いも、風も、湿った空気の重さも。
誰かの記憶なのに。
まるで本当に、そこに立っているみたい。
その時。
背後で、凄まじい轟音が響いた。
振り返ると、巨大な黒い波みたいな土砂が、山肌ごと崩れ落ちてくる。
木々がへし折れ、家が押し潰され。
逃げ惑う人の悲鳴が、土砂の唸りに飲み込まれていく。
車が、人があっという間に泥のうねりの中へ消えていった。
押し寄せて、攫って。
形を残さず塗り潰していくその動きが――
(……津波みたい)
目の前の景色が、勝手にあの日と重なる。
(だめ、引っ張られちゃだめ)
これは私の記憶じゃない。
この泥の下で、災害で命を奪われた人たちの記憶だ。
恐怖で急速に冷えていく指先に、無理やり力を込めた。
(今、送るから……)
祈るように意識を深く沈めると、
手のひらから、ふわりと温かい白い光が溢れ出した。
淡く光る花弁がひとつ、またひとつと暗闇の中に舞い上がって、集まりかけたそのとき――