第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
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帳の中は、外の世界とはまるで違う時間が流れていた。
青黒い淀んだ空の下、ひしゃげたトタン屋根や、半分泥に埋まった柱が不気味な影を落としている。
一歩足を踏み出すたびに、ぐちゃと嫌な音を立てて重い泥が靴の底にまとわりついた。
「うわ……思ってたより酷いな」
前を歩いていた虎杖くんが、ぐるりと周囲を見渡して声を漏らした。
その声は、重く湿った空気に吸い込まれるように響く。
「……そうだね」
私は短く答えて、視線を落とした。
足元には、どこまでも続く赤茶けた土砂。
この何十メートルも下には、今も――。
(だめだめ。考えちゃだめ)
振り払うみたいに小さく首を動かして、目の前だけを見る。
虎杖くんが崩れた家屋の残骸を見つめながら、静かに口を開いた。
「……災害って、辛いよな」
「理不尽だけどさ。でも……誰のせいでもないし」
(誰の……せいでもない)
その言葉が、耳にこびりついたまま離れない。
虎杖くんは、ただ純粋な気持ちで言っただけだ。
自然の猛威の前では、人間は無力で。
だから、誰かを責めても仕方ないって。
(……本当に?)
そんなふうに、簡単に終わらせられる?
行き場のない怒りも。悲しみも。
どうすればいいの。
運が悪かった、で終わるの?
仕方なかった、って言い聞かせて。
笑って済ませられる?
言葉の端が爪みたいに引っかかって、そこから裂けていく。
私があんなこと言わなければ。
もっと強く手を握っていれば。
私だけが、生き残ってしまったこと。
お父さんとお母さんが亡くなったことを……
私は誰のせいでもないなんて、思えないよ。
小太刀の柄を握る手に、ぎゅっと力を込める。
(しっかりしなきゃ。今は任務に集中)
そう自分に言い聞かせて。
泥だらけの地面を強く踏みしめた、 その時だった。