第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
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ドーム状に広がった漆黒の闇が、二人を飲み込むようにして閉じた。
後には、森のざわめきと、湿った土の匂いだけが残る。
「…………」
伊地知は、二人の背中が消えた闇を見つめたまま、ハンカチで額の汗を拭った。
五条はボンネットに腰掛けたまま、ポケットから自分のスマホを取り出した。
慣れた手つきで画面を操作し、何かを眺めている。
その横顔は、目隠しに隠れて表情が読めない。
「あの、五条さん……」
伊地知が、恐る恐る口を開いた。
「んー?」
五条は視線をスマホから外さずに、気のない返事をする。
「……今回は、一体どういうお考えなんですか?」
「え? 何が?」
「とぼけないでください」
伊地知にしては珍しく、語気が強かった。
「虎杖くんは分かります。彼は実戦経験が必要ですし、身体能力も桁外れだ。準一級相手でも、生き残る術を持っている」
伊地知は一度言葉を切り、五条の方へ向き直った。
「ですが……さんに、この任務を担当させるなんて」
五条の手が、ふと止まる。
「彼女は呪力がないんですよ? 魔導という力があるとはいえ、身体能力は一般人と変わらない。ましてや……」
伊地知は言葉を濁し、それでも意を決したように続けた。
「……さんは、五条さんの……その、恋人でしょう?」
その言葉に、五条がゆっくりと顔を上げた。
サングラス越しでも分かる鋭い視線が、伊地知を射抜く。
「大切にされていると、思っていました。……以前、さんが大怪我された時も、五条さんすごく心配されていましたし」
「だからこそ、こんな無茶な……死に直結しかねない現場に放り込む意味が、私には分かりません」
伊地知の訴えは、もっともだった。
恋人ならば、危険から遠ざけるのが普通だ。
ましてや五条ならば、彼女を鳥籠に入れて守り抜くことなど造作もない。