第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
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「……あー、死ぬ。マジで死ぬ。これで2日目ってどういうことよ」
共用スペースのソファに、野薔薇ちゃんがぐったりと沈み込んでいた。
「真希さん、鬼でしょ。あんなの拷問よ、拷問」
「釘崎、声でけーよ……」
隣のシングルソファでは、伏黒くんがスポーツドリンクを片手に、げんなりした顔をしている。
彼も相当しごかれたらしく、いつものクールな立ち振る舞いに疲労が滲んでいた。
私もソファに座って、自販機で買った冷たいお茶を頬に当てていた。
ひんやりとした感触が、じんと熱を持った肌に染みていく。
「……はぁ」
小さく息が漏れる。
腕も、脚も、思うように動かない。
(明日、全身筋肉痛だ……)
想像しただけで嫌になる。
ソファの上で膝を抱え込んで、額を少しだけ寄せた。
『腹くくれ。……じゃねぇと、守りたいもんも守れねぇぞ』
真希さんの言葉が、一日中頭から離れなかった。
(……分かってる)
迷っている暇なんてない。
現に、先生を傷つけてしまっている。
けど――むしろ、変わらなきゃと焦れば焦るほど。
波に呑まれていった、あの日の記憶。
あの先生の顔。
交互に浮かんで、消えて。
また浮かんで。
(ちゃんと、前に――)
でも、その“前”がどこなのか分からない。
胸の奥が、ざわざわする。
体の疲れとは違う、落ち着かない感覚。
ぎゅっと目を閉じて、膝に顔を埋めた、その瞬間――
「お、! 隣、いいか?」
虎杖くんの声でハッと顔を上げた。
「あ、うん。どうぞ」
虎杖くんがドカッと隣に座った。
「いやー、今日もハードだったな! でも俺、なんか掴めてきた気がすんだよな」
虎杖くんが炭酸ジュースの蓋を開けると、シュッと軽い音が弾ける。
「……虎杖くん、体力ありすぎ」
「そっか? こそ、呪力強化なしであのメニューこなしてんの、すげーよ」
虎杖くんの褒め言葉も、今は少しだけ胸に刺さる。
「……そんなこと、ないよ」
少し遅れて、そう返した。
(……すごくなんか、ない)
ただ、考えたくないだけ。
逃げるみたいに、動いてるだけだ。
(だめだな、私……)
またため息が溢れそうになった、その時だった。