第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
真希さんが、私の目線に合わせてしゃがみ込んだ。
「お前、何がしたい?」
「……」
「何が欲しい? 何を叶えたい?」
その気迫に圧倒されて、後ずさりしそうになる。
「なんの目的もなくやってけるほど……」
「呪術高専は甘くねえぞ」
真希さんの言葉は冷たく、それでいて痛いほど正しかった。
唇を噛み締め、俯くことしかできない。
「おーい、真希! ! 飯だぞー!」
張り詰めた空気を破るように、のんびりした声が響いてきた。
演習場の入り口で、パンダ先輩たちが手を振っているのが見える。
「……もうそんな時間か」
真希さんは、パンダ先輩の方へ声を張り上げた。
「おう、すぐ行く!」
短く返事をしてから、真希さんは再び視線をこっちに落とした。
「おい、いつまで座ってんだ。置いてくぞ」
「あ……」
「……」
真希さんの声が、少しだけ低くなった。
「術師としてやっていきたいなら……迷ってる暇なんて、ねぇんだよ」
「腹くくれ。……じゃねぇと、守りたいもんも守れねぇぞ」
真希さんはそれだけ言い残すと、パンダ先輩の方へと歩き出していく。
遠ざかっていくその背中は、
私とは違って、強くて、真っ直ぐで。
迷いなんて感じられない。
(……守りたいもの)
無意識のうちに、首筋へと手が伸びていた。
昨夜、先生が何度も強く歯を立てた場所。
そっと触れると、治してもらったはずなのに。
まだ、じんとした熱を帯びている気がした。
(どうすれば、いいの……?)
――分からない。
でも。
その“分からなさ”の真ん中に、先生がいる気がした。
「……せんせい」
ずっと心の奥底に封じ込めてきたものが、せり上がってくる。
(これは、私の問題なんだから。言ったら、だめ……)
許されないと分かっているのに、止められなかった。
「……たすけ、て……」
こぼれたその言葉は、誰もいない演習場に消えていく。
瞬きをした拍子に、涙が一粒、竹刀を握る手の甲に落ちた。