第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
「二人の間に何があったかは知らないけど……一人で抱え込むなよ」
「どうせ理解なんてしてもらえないって……勝手に拗らせて」
硝子さんの声が、ふっと低くなる。
その視線は私の首筋に向けられているはずなのに、どこか遠い過去を見ているようだった。
「……取り返しがつかなくなった奴が昔いたからな」
その言葉の重みに、私は息をのんだ。
(……夏油さんの、ことなのかな)
硝子さんの瞳の奥に、言葉にできない寂しさが揺れている気がして、何も聞けなくなる。
しばらくして、首筋からふっと温かい手が離れた。
「はい、おしまい」
硝子さんが、小さな手鏡を渡してくれた。
それをを覗き込むと――
「……あ」
あれだけ赤黒く広がっていた痕が、今はうっすらとした桜色に変わっている。
よく見れば残っているけれど、遠目にはほとんど分からない。
「私の術式でも、今はこれが限界」
「ま、よーく見ればわかるけど……パッと見は大丈夫だろ」
「……ありがとうございます、硝子さん」
「礼には及ばないよ。……その代わり」
硝子さんは立ち上がり、白衣のポケットに手を突っ込んだ。
「五条には、あとでたっぷり請求書回しとくから」
ニヤリと笑うその顔に、少しだけ救われる。
頭を下げて部屋を出ようとしたとき、背中越しに呼び止められた。
「」
振り返ると、カチッ、とライターに火がつく音が鳴る。
硝子さんは咥えたタバコに火をつけながら、ふっと口角を上げていた。
「五条は、が思ってる以上に……お前に惚れてるよ」
「え……」
「もう少し、信用してやれ」
硝子さんはそれだけ言うと、ひらりと手を振って私を追い払った。