第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
「ま、冗談は置いといて」
「お風呂準備させるから。今日はゆっくり休みな」
「……あ、はい……」
先生はベッドから立ち上がると、クローゼットから予備の制服を取り出した。
漆黒の生地が、さっきまで私を抱いていたその肌を隠していく。
最後に、いつもの黒い目隠しを目元に纏うと、そこにはもう見慣れた“先生”が立っていた。
「僕は、これからちょっと出かけてくる。ま、朝には戻るよ」
そう言って、先生が私の方へ歩み寄ってくる。
ベッドサイドにしゃがみ込み、顔を覗き込んできた。
目隠しをしてても、視線が絡んだのがわかる。
先生の顔が近づいて。
私の額に、温かい唇が落とされた。
「……さっきは、ごめん」
「え……」
そのまま、ぎゅっと背中を引き寄せられた。
先生の胸板に顔が埋まって。
耳元で聞こえるのは、等間隔で響く低い鼓動だけ。
「……おやすみ」
ひらりと片手を振って、先生は背を向けて部屋を出て行った。
カチャ、とドアが閉まる音がする。
しん……と静まり返った室内。
ベッドの上でゆっくり身を起こした。
額に残る唇の名残と、まだ抜けきらない身体の痺れ。
ふと、視線が自分の手首に落ちた。
強い力で押さえつけられていた場所が、うっすらと赤くなっている。
その痕を、そっと指先でなぞった。
(謝らなきゃいけないのは、私の方なのに……)
「……ごめんなさい」
ひとりきりの部屋に、掠れた声が落ちる。
でも、この謝罪は――
先生に向けたもの?
それとも。
お父さんと、お母さんに?
分からない。
(……なんか、疲れた……)
体から力が抜けていく。
瞼が、ゆっくり落ちていく。
遠くで、波が寄せては返す音がする。
その音に包まれながら、私は目を閉じた。