第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
虎杖くんの足音が聞こえなくなると、先生が「ふぅ」と息を吐いた。
「来たのが悠仁でよかったね。恵だったら、気づかれたかもよ」
そう言いながら、私の乱れた前髪を指ですくう。
次に、汗で頬に張りついた髪。
涙で赤くなった目元。
そして――首筋に散らされた、いくつもの赤い痕を、指の腹がゆっくりとなぞっていく。
触れられるたびに、そこが“先生のもの”だと確かめられているみたい。
「まぁ、この姿見たら、流石に鈍い悠仁も……僕たちが“何してたか”気づいちゃうね」
「……っ」
その一言で、頭の中に最悪の想像が一気に広がった。
思わず枕を引っ張り上げて、顔の半分を隠した。
「……いじわる、です」
「事実でしょ?」
先生はくすっと笑って、ゆっくりと身体を起こした。
シーツが擦れる音がして、鍛えられた広い背中が見える。
さっきまで私に触れていた温度が、急に遠くなったみたいで。
少しだけ心細い。
先生は枕元のスマホを手に取り、時間を確認すると、
「、今日はこっちで寝な」
「え……でも……」
振り返った先生が、私の首元を指差す。
「そんな体じゃ、みんなに怪しまれるだけだよ」
「……う」
確かに、この首の痕をどう隠せばいいのか分からない。
持ってきた服も、ジャージとTシャツ、それに襟の開いたワンピースだけ。
(どうしよう……どっちにしろ、絶対バレる……)
途方に暮れる私を見て、先生は何かを思い出したようにポンと手を打った。
「あ、そうだ。明日、硝子が来るからさ」
「バレーの時の怪我、見てもらうついでに。そのキスマーク、なんとかしてもらおうか」
「……な!?」
硝子さんに……?
こ、これを……!?
反転術式で治してもらうってこと……!?
「そ、そんなの……! 硝子さんに何て言えば……」
「『虫に刺されちゃいました』って言えば? 硝子なら笑って治してくれるよ」
「……絶対に、笑ってすまされないです……」
こんなの、誰が見たってキスマークとしか思えないし。
大人の硝子さんなら、なおさら一瞬で見抜くに決まってる……
すると、先生はふっと表情を和らげて、私の頭にぽんと手を置いた。