第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
執事さんに部屋を聞き、廊下を進む。
足音がやけに響いた。
(着いてしまった……)
ドアの前で、足を止める。
ただ衝動のまま、来てしまった。
何を言いに来たのか。
先生に、どうしてもらいたいのか。
何も思いつかない。
心臓の音だけが、さっきよりずっとうるさくて。
ひとつ脈打つたびに迷いだけが膨らむ。
「……先生? です」
控えめにノックしたが、返事はない。
でも、中に人の気配がするのは分かる。
しばらくして、ガチャリと鍵が開く音がした。
ドアがゆっくりと開き、隙間から冷房の涼しい風が漏れ出してくる。
「あ……」
目の前に現れた先生は、上半身裸でグレーのジャージのパンツ。
シャワーを浴びたばかりなのか、髪が濡れている。
その水滴が鎖骨を伝い、胸元へと落ちていくのが見えた。
先生はタオルで髪を拭きながら、気怠そうに私を見下ろしている。
いつもなら冗談めかして笑うはずの口元が、今は一直線に結ばれていた。
「……す、すみません。シャワー中だって知らなくて……」
思わずそう口にしたけれど、先生の表情は変わらなかった。
「……どうしたの。なんか用?」
声が、いつもより冷たい。
「あの……先生が、途中でいなかったから……」
「何か足りないものでもあった? 必要なものあれば、うちの執事に言って」
そう言って、ドアを閉められそうになる。
「……っ!」
考えるよりも先に、身体が動いていた。
私は閉まりかけたドアの縁を、とっさに両手で掴んでいた。
衝撃で扉が止まる音が、廊下に響く。
先生が動きを止めた。
少しの間。
何も言わず、何もせず。
視線がドアを掴む私の手元に落ちると、ゆっくりと顔を上げて、大きいため息をついた。
「ねえ、」
先生が一歩、前に踏み出してくる。
濡れた前髪から、雫がポタリと落ちて私の頬を濡らした。
「こんなとこ、みんなに見られたらどうなるか……分かってる?」
「言い訳、できないよ」
そして、ゆっくりと首を傾ける。