第22章 「可惜夜に眠る 中編**」
(ずっと、平気だったのに)
心の中に、小さな波紋が広がっていく。
どこかがひりついて、疼いている。
(気仙沼に行ってから、私……)
(なんか、おかしい)
ずっと蓋をしてたはずのものが、じわじわと溢れてくる。
もう、うまく蓋ができない。
(……だいじょうぶ)
(だいじょうぶ。……だいじょうぶだから)
いつもみたいに、そう言い聞かせる。
なのに――
胸の奥がざわついたままなのは、どうしてなんだろう。
お父さんとお母さんが、
ずっと見て見ぬふりをしてきた私を、
どこかで責めているのかもしれない。
もし、あの時。
もっと強く手を引いていたら。
もっと早く気づけていたら。
私が――
(……やめて)
考えちゃ、だめ。
深呼吸をする。
けど、どうしても潮の匂いが混ざってうまく息ができない。
気づけば、先生を探していた。
白い髪。
サングラス。
どんな状況でも、全部ひっくり返してしまいそうな、あの余裕。
何が起きても、「大丈夫」と言い切ってくれる声。
先生⋯⋯
(……あれ?)
さっきまで中心で騒いでいたはずの、先生がいない。
「真希さん、先生は?」
「悟か? さっき部屋に戻るって言ってな」
「え……」
「うるさいやついなくて、ちょうどいいだろ。ほっとけほっとけ」
真希さんは興味なさそうにそう言って、また肉を焼き始めた。
(部屋に戻ったてことは……仕事かも)
そう思おうとした。
けど……さっきの、ビーチでの先生の顔。
サングラスをかけ直した仕草。
何もなかったみたいに笑った横顔が、頭から離れない。
気づいたら、私は紙皿をそっとテーブルに置いていた。
「……私、ちょっとトイレ」
そう言って席を立ち、みんなの楽しげな声を背中に残して歩き出す。
先生がいるはずの部屋へ向かった。