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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第6章 「月夜、心を濡らす」


その夜は月が綺麗だった。
だからこそ――その夜が、いつもより残酷に思えた。









場所は都内の外れにそびえる高層ビル。
任務内容は、低級相当の呪霊討伐――のはずだった。
けれど今日は、もう一つ目的があった。


(呪具の訓練。……そのために、先生が付き添ってくれたんだ)


それだけで胸が少しだけ誇らしかった。
実際、任務はどうにか成功した。
小太刀を握る手はまだ震えているけれど、それでも“自分の力で”やり遂げた。


――問題は、ここからだった。


今、と五条はエレベーターで下へ降りている。
二人きり。
閉じられた箱の中に、ほとんど音がない。


(……気まずい)


あの日――医務室でキスされた時から、五条と二人になるのは初めてだった。
沈黙が、やけに耳に響く。


(……なにか話さなきゃ。でも、なにを?)


チラリと横目で見やった瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。
五条はいつも通りに見える。
だけど、その“いつも通り”が今は少し怖くて、少し苦しい。


言葉を飲み込み、視線を落とす。


――その時だった。


ゴウンッ――。


大きな揺れが、箱を突き上げる。
床が傾き、壁が軋んだ。


「……っ!」


が思わず手すりを掴む。



「おっと」



五条の声は軽いが、足元はしっかりと踏みしめられている。


次の瞬間――


エレベーターは急停止し、非常灯だけが赤く室内を染めた。


(……止まった?)


胸の奥が、別の意味で早鐘を打つ。



「……地震か」



非常灯に照らされた顔をひそめ、五条がぽつりとつぶやく。
それから、ふっとに視線を向けた。



「、大丈夫?」



その声がやけに近く感じる。
返事をしようとしたのに、喉が詰まって声にならなかった。


(……だめだ。思い出す――)


東北の海。
黒くうねる津波と、瓦礫と、泣き叫ぶ声。
あの日の光景が、鮮やかすぎるほどに蘇る。


の頬がみるみる青ざめていくのを見て、五条は手すりから彼女の手をそっと外した。



「ほら、座ろっか」



柔らかい声色だった。
促されるまま、は壁際に腰を下ろす。
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