第21章 「可惜夜に眠る 前編」
そこには、透き通った青い風船のようなものが落ちていた。
太陽の光を浴びて、キラキラと輝いている。
「綺麗だねぇ。貝?」
「あ、それ……カツオノエボシです」
私も立ち上がって先生の隣に並んだ。
「カツオノ……エボシ?」
「はい。電気クラゲの一種で……刺されるとすっごく痛いんですよ。死んでても、毒針は生きてるから。綺麗だけど、触っちゃダメ」
先生は感心したように頷く。
「、詳しいね」
「えへへ……」
褒められて、少しだけ頬が緩む。
懐かしい記憶が、不意に蘇った。
「小さい頃は、よく……海で遊んでて」
「お父さんが、教えてくれたんです。海には危ないものもいっぱいあるから、綺麗なものを見つけても、すぐに触っちゃだめだって……」
(……あ)
言った瞬間、自分の口から出た言葉に気づく。
私、いま、なんで――
「……そっか」
先生の声が、いつもよりほんの少しだけ低くなった気がして。
慌てて言葉を重ねた。
「あ、あの……! これ、誰か踏んだら危ないから……埋めておきますね!」
近くに落ちていた長い枝木を拾うと、カツオノエボシをひっかけて持ち上げた。
みんなから離れた場所に運んで埋める。
「……よし。これで大丈夫、です」
振り返ると、先生は海パンのポケットに手を突っ込んだまま、じっとこちらを見ていた。
私は、それに耐えられなくて、視線を海に逃がした。
私の嘘も、その裏にある臆病な心も。
先生は気づいている。
でも、あの日。
気仙沼から戻って以来、先生は私に何も聞いてこない。
それが、優しさなのか。諦めなのか。
それとも――
もう、踏み込まないと決めたのか。
……わからない。
波がまたひとつ寄せてきて、私の足元で泡立った。
(この海のどこかに……)
お父さんとお母さんは、まだいるのかな。
もう、私の知らない形になって。