第21章 「可惜夜に眠る 前編」
先生が顔を寄せ、私の耳元に唇をつけた。
吐息がかかる距離。
低く、甘く、濡れたような声が鼓膜を震わせる。
「可愛すぎて……今すぐ、脱がしたくなるんだけど」
その言葉と同時に、指先が腰へ滑る。
ショーツを繋いでいる、細い紐。
結び目の輪に、長い指が引っかかった。
くっ、と。
ほんの少しだけ、引かれる感触。
「っ――!?」
紐が緩む感覚に、ひやりとする。
この人はどこまでが本気で、どこまでが冗談かわからない。
パラソルの影で、周りからは見えない死角。
もしここで先生がその気になったら、私なんて――。
(む、むりむりむり!!)
私は弾かれたように立ち上がると、先生の手を振りほどいた。
「と、トイレ行ってきますっ!!」
「あ、! 走ると傷口開くよ~?」
振り返る余裕もなく、私はラッシュガードを抱えて逃げるように走り出した。
背後から、呑気に笑う声が追いかけてくる。
もう、ほんっとに、わざとだ……!
熱くなった顔を手で仰ぎながら、
とにかく先生の視線から逃げるように、トイレへと急いだ。
♢
トイレから出た私は、真っ直ぐゲストルームのロッカーへ向かった。
(……さすがに、水着のまま戻るのは無理)
ラッシュガードは破れてるし、このままだと先生の言葉を思い出して死にそう。
予備で用意していたTシャツを代わりに羽織った。
みんなの元に戻ると、ビーチの方が何やら騒がしい。
私のいない間にバレーの決着がついたのか、それとも中断したのか。
みんな、コートから海へと雪崩れ込んでいた。
「ヒャッハー!! 海だぁぁぁ!!」
虎杖くんが雄叫びを上げて、海へダイブする。
盛大な水しぶきが上がった。
「ちょっと虎杖! 水かけんなってば!」
野薔薇ちゃんが浮き輪を装着して、プカプカと波間に浮かびながら怒鳴っている。
でも、その顔はすごく楽しそうだ。