第21章 「可惜夜に眠る 前編**」
「あんた……馬鹿なの!?」
「えっ?」
「自分の腕、見てみなさいよ! 切れて血が出てるじゃない!」
野薔薇ちゃんの震える指先が、私の腕を指す。
見ると、ラッシュガードの袖が裂け、二の腕から肘にかけて赤い線が走り、血がじわりと滲んで砂を汚していた。
背中も、ジンジンと熱を持って痛む。
たぶん、ポールで強打したんだと思う。
「あ、これ……平気だよ。かすり傷だし」
「平気なわけないでしょ! 私が避けられなかったのが悪いのに、なんであんたが飛び込んでくんのよ!」
「だって、野薔薇ちゃんが怪我したら大変だし……それに」
私は、滲む血を手のひらで拭って、へへっと笑った。
「点数入ったし、結果オーライだよ」
「……ッ、あんたねぇ」
野薔薇ちゃんは何か言いかけて、悔しそうに唇を噛んだ。
その目には涙が滲んでいるように見えて、私は慌てて「ほんとに痛くないから!」と手を振った。
審判台から先生がひらりと飛び降りて、近づいてきた。
サングラスをずらして、私の裂けた袖から覗く傷口を覗き込んだ。
「……傷は深くないけど、手当てした方がいいね。それに背中、強打したでしょ」
「い、いえっ、全然! このぐらい、任務でもよくあるし……」
そう言って、立ちあがろうとすると――
先生の大きな手が、私の肩をガシリと掴んで止めた。
「ダメ」
「傷口に砂が入ってる。ちゃんと洗って消毒しないと」
「でも、あと一点で……」
「はここで抜け。手当てが先」
先生は私の腕を引くと、コートに残されたみんなに向かって手をひらつかせた。
「僕が向こうで手当するから、みんなは続けてていいよよ〜」
先生は、そう言って私の肩を抱き寄せた。
「ご、ごめんなさい……足手まといで……」
「気にすんな。……少し休んでろ」
伏黒くんがそう言いながら、冷たいペットボトルの水を渡してくれた。
「ほら、行くよ」
「は、はい……すみません……」
みんなが心配そうに見送る中、私は先生に身体を支えられながらコートを後にした。