第21章 「可惜夜に眠る 前編**」
視線を落とすと、
私の手の上に、先生の手が重なっていた。
そのまま、指がゆっくりと絡められていく。
そして、手をぎゅっと握られた。
強く。でも、どこか確かめるように。
「……っ」
声が出そうになって、慌てて口をつぐむ。
(……先生……)
先生はシートに深く体を預けたまま、動かない。
言葉も、視線もないのに。
その体温だけが、確かに伝わってきた。
繋がれた手のひらのあたたかさが、胸の奥に染み込んでいく。
「大丈夫だよ」って、言われてる気がして。
(……あったかい……)
なんだか泣きそうになって、慌てて窓の外に視線を逸らす。
夏の光が、ガラス越しにきらきら揺れていた。
バスの中は、相変わらずにぎやかで。
野薔薇ちゃんの笑い声、虎杖くんの叫び声が飛び交ってる。
でも――
後ろの席からは見えない、この前の席だけは。
私と先生だけの、小さな秘密だった。
少しだけ力を込めて先生の手を握り返す。
先生の指も、ほんの少しだけ応えるように動いた。
(……このまま、どこにも着かなければいいのに)
私たちは、到着するまで一度も手を離さなかった。
♢
「はーい、到着〜!」
バスの停車と共に、先生の明るい声が響いた。
その瞬間、絡められていた指が、するりと解かれていく。
(……あ)
私は名残惜しさを隠すように、空っぽになった左手をぎゅっと握りしめた。
まだそこに、先生の温もりが残っている気がして。
ドアが開く音と共に、野薔薇ちゃんが一番に飛び出した。
「つっいーたー!! さあ、私の夏が始まるわよ!」
「うおお! 海! プール! バーベキュー!」
虎杖くんがビーチボールを掲げて、テンションMAXで続いた。
(……五条家の、別荘……)
京都のご実家もすごかったから、別荘もすごいんだろうな。
お城みたいだったりして。
そんなことを考えながら、私もみんなに続いてバスを降りると――
「…………は?」
野薔薇ちゃんの、低くて震える声が響いた。
視界に飛び込んできたのは、お城でも、洋館でもなかった。
そこにあったのは――