第21章 「可惜夜に眠る 前編**」
窓の外に視線を向けると、
高専の校舎、石畳の道沿いに並ぶ木々が少しずつ後ろへ流れていく。
それをぼんやり眺めながら、ふと思う。
(そういえば、合宿先ってどこなんだろう)
野薔薇ちゃんは、たしか「五条家の別荘」って言ってた。
(……別荘って、海の近く……?)
“海”。
その言葉が浮かんだだけで、胸の奥がひやりと冷えた。
あの光景が、また押し寄せてくる。
潮の匂い。
濁流の音。
目の前でさらわれていく、世界の色。
(っ……)
ブレーキをかけるみたいに、私はまぶたをぎゅっと閉じた。
(……大丈夫、大丈夫)
そう自分に言い聞かせるように、深く呼吸を整える。
いつものように。震えないように。
最近は、ここまでじゃなかった。
任務で港に行っても、友達と海の話をしても、やり過ごせていた。
少しずつだけど、平気になってきた。
――そう、思っていたのに。
ふと隣を見ると、先生は無言のまま前を向いていた。
目隠しで、表情はよくわからない。
(……もし、先生に “あの日”のことを話したら)
(きっと「のせいじゃない」って、言ってくれるに決まってる)
……だけど、それでいいの?
私だけ、そうやって“許されて”、進んでいって。
あの日、私の前から消えた二人の笑顔と一緒に、私の心の一部は凍りついたままだ。
そこに、ずっと置き去りの私がいる。
気仙沼に行って思った。
街は綺麗になっていて、知らない建物が建っていて。
私の記憶の中の風景は、もうそこにはなかった。
あそこで暮らす人たちは、止まった時計の針をちゃんと動かそうとしていた。
前を向いて、進もうとしている。
なのに、私は。
私は……
そのとき――
膝の上に置いてあった左手に、何かがそっと触れた。
(……え?)