第21章 「可惜夜に眠る 前編**」
「でも、私、水着なら……持ってるけど……」
私がそう言うと、野薔薇ちゃんの目が鋭く細まった。
「どうせ、中学のスクール水着でしょ?」
「っ……!」
図星だった。
「はあぁ……あんた、それ着てせいぜい喜ぶのは、あの目隠し教師くらいよ」
え!?先生は、スクール水着が好きなの?
でも、野薔薇ちゃんの言う通り、高校生になってスクール水着着るのは……
「……ちょっと、恥ずかしくなってきた」
「でしょ? いいからさっさと準備しなさい!」
そう言って、野薔薇ちゃんは私の部屋にズカズカと入ってきた。
「10分以内ねー!遅れたら罰としてランチ奢りなさい」
「えええええっ!?」
野薔薇ちゃんはベッドにどかっと座って、スマホをいじり始める。
私は観念して、部屋の洗面所で顔を洗う。
鏡の前で顔を上げると、目の縁が少し赤い。
4泊5日の夏合宿。
先生も……来るよね。
胸の中に残っているものが、まだ重いままなのに。
季節はいつも、止まった私の背中を押してくる。
ベッドから、野薔薇ちゃんが叫ぶ声が聞こえた。
「ー、もう5分経ったわよ!」
「え、なんか早くない? 今、準備してるからっ」
蛇口を閉めて、タオルで顔を拭う。
そして、もう一度だけ深呼吸をした。
「……行かなきゃ」
――こうして、私の夏休みは。
まだ追いつけていない心ごと、動き出した。