第21章 「可惜夜に眠る 前編**」
さすがに、はっきりとは覚えてないけど……
みんなでお花見に行って。
私は桜の花びらを必死に追いかけて。
お父さんとお母さんが、それを見て笑ってた。
この写真は、おばあちゃんからもらった。
あの家にあった写真は、全部流されてしまって。
だから……家族写真は、もう数えるくらいしかない。
指で、写真の二人の手にそっと触れる。
ほんの少しだけ、紙が波打ってる。
何度も何度も、触れた跡だった。
でも、二人の笑顔を直視できなくて。
その写真を裏返しにして、引き出しに押し込んだ。
目元が熱くなって、視界がにじむ。
背中を丸めて、その場にしゃがみ込んだ。
(……やっぱり、まだダメだ)
夢の中で見た二人の笑顔が、目を閉じるたびに浮かんでくる。
あの声が、耳に残っている。
(……ごめんなさい)
零れた涙が、床に落ちた。
思い出す。
先生が言った、あの言葉。
『僕も、の両親に挨拶したい』
……だめだよ。
そんなの、無理だよ。
だって、見せられないよ。
私だけ笑って、ごはんを食べて。
先生と手をつないで、前に進んで。
そんな今を生きてる私を、ふたりは……どう見てるんだろう。
お父さんとお母さんが、怒ってる気がして。
(どうして、お前だけ生きてるの)
そんな声が、聞こえる気がして。
震災から少し経った後。
みんな、行方不明の人を探したり。
流されたものを拾いに行ったり。
瓦礫の間から、少しでも手がかりを見つけようとしてた。
でも、私は一度もあそこに近づかなかった。
(行けない、じゃなくて……行かなかった)
怖かった。
見つけてしまうのも。
見つけられないのも。
どっちも。
それに――
あの場所に行ったら、絶対に分かってしまう気がした。
自分が、どれだけ取り返しのつかないことをしたのか。
だって、私があんなことを言わなければ……
二人は今も、生きていたかもしれないんだから。