第20章 「君の心をさらったその日から**」
ぐらり、と地面が揺れた。
停まっていた車のガラスがカタカタと音を立て、近くの電柱が細かく軋む。
数秒後、揺れは止んだが、街全体がその余韻にざわつき始める。
「やだー、地震?」
「津波、大丈夫か?」
ざわめきが広がる中、スピーカーにノイズが走る音が響き渡った。
《……ただいまの地震による、津波の心配はありません。繰り返します――ただいまの地震による、津波の心配はありません》
沿岸部に設置された防災無線が、一斉にその警告を流す。
その音が、まるで押し寄せる波のように町を包み込んでいた。
誰かが「良かった」と小さく呟いた。
緊張でこわばっていた空気が、少しずつほどけていく。
さっきまで立ち止まっていた人々も、再び歩き出しはじめた。
「、心配ないって」
声をかけたが、返事はない。
振り返ると、そこには呆然と立ち尽くすの姿があった。
「……?」
もう一度呼んでも、返事はない。
視線は、真っ直ぐに“海”を見たままだった。
整えられた防潮堤の向こう。
穏やかに波打つだけの水面。
やがて――
その目から、涙が一筋だけ、静かに頬を伝い落ちた。
「……ぁ……ごめ、なさ……」
はその場にしゃがみ込んだ。
両手で口元を押さえたまま、涙が次々こぼれていく。
嗚咽は音にならず、肩だけが小さく揺れていた。
(ここはただでさえ、海が近いし……)
怖くて当然だ。
は前にも、揺れただけで顔色を変えたことがあった。
「怖かったね、大丈夫だから」
僕はに近づいて、手を伸ばした。
深く聞くのは、あとでいい。
今はその震える肩を抱きしめて、僕がここにいると伝えたくて。
の腕に指がかかる――その直前。