第20章 「君の心をさらったその日から**」
「バス乗り場は……こっちか」
ロータリーの案内板を見ながら進むと、すでに何人か並んでいた。
旅行客っぽい家族連れ。
スーツ姿の男性。
でかいリュックを背負った学生。
僕たちもその後ろに並ぶと、ちょうどバスが滑り込んできた。
エンジン音と一緒に、熱を含んだ風が吹いた。
車内に足を踏み入れると、冷房の冷たい空気が頬を撫でた。
さっきまでの暑さが嘘みたいに引いていく。
席に着くと、ドアが閉まった。
同時に、小さな振動と一緒に、車体がゆっくり動き出す。
隣の席に座っているは窓の外に視線を向けている。
でも、手は膝の上で硬く握られていた。
僕は、牛タン弁当をに渡す。
「食べよ。着くまで長いし」
「……ありがとうございます。おいしそう」
はそう言って受け取ったが、なかなか箸は進まない。
僕はそれに気づかないふりをして、焼きたての牛タンをひとくち頬張った。
香ばしい炭火の風味と、ジューシーな肉汁が口に広がる。
「うん、本場の牛タンはやっぱ美味いね〜」
「は? 懐かしい味?」
は少しだけ顔を上げて、ぎこちなく笑った。
「久しぶりに食べました。……やっぱ、美味しいですね」
だが、箸はまた止まり、の視線は再び窓の外へと滑っていく。
外の景色を見てるふりをして――
何かから目を逸らしてるのが、分かりすぎるくらい分かる。
(ほんとは、行きたくないんでしょ)
怖いって。
まだあの日が忘れられないって。
今ここにいるだけで、息が詰まりそうだって。
僕にそう言えばいいでしょ。
なのに、なんで言わないの?
(言ってよ。)
(そんなに僕に、過去を見られたくないの?)
君は平気なふりをして笑うだけ。
その薄い笑顔が、僕をいちばん苛つかせる。
(……無理させてるのは、分かってる)
優しくしたいのに。
怖い思いもさせたくないのに。
でも、今はこれしか方法がないような気がした。