第20章 「君の心をさらったその日から**」
の実家があるところだ。
いや、正確には“あった”って言い方か。
あの日、海にさらわれた場所。
(……行けば、何か分かるかもしれない)
が言わないこと。
笑って誤魔化す顔の裏に、閉じ込めてるもの。
知りたい。
言葉じゃなくてもいい。
表情でも、目線でも、なんでも。
の“過去”が、どんな形をしてるのかだけでも。
「わかった。いいよ」
僕が了承すると、伊地知がほっとしたように息を吐く。
「ではこのまま、東京駅に向かいます」
「も一緒に連れていく」
「えっ」
伊地知の声が裏返った。
「い、いえ……ですが、現場は一級、それ以上の可能性も――」
「大丈夫だよ、僕がいるんだし」
被せるように言って、隣へ視線を流す。
「も勉強になる……それに、の力で試したいこともあるしね」
笑って言ったけど、笑ってない。
伊地知にも、それが伝わったんだろう。
「……五条さん」
伊地知が何か言いかけて、飲み込んだ。
「。今日、任務なかったでしょ」
「……え、あ……でも……」
「行けない理由でもあるの?」
僕がそう訊いた瞬間、の顔から血の気が引いたように見えた。
拒否したいのに、拒否できない――その迷いが、そのまま目に出てる。
(言えばいいのに。“行きたくない”って)
でも彼女は、いつもそうだ。
困らせないように。弱く見せないように。
は膝の上で指をきつく握り込んで、爪が白くなっている。
だが、僕の目を見て答えた。
「……いえ。行きます」
「じゃ、決まり」
僕がそう言うと、伊地知が観念したように息を吐いた。
「……わかりました。では、二人分のチケットを用意します」
車は再び動き出し、東京駅へ向かって走り出した。