第20章 「君の心をさらったその日から**」
きぃ、とタイヤが短く鳴って、車が路肩に寄せて止まった。
仕方なくから唇を離す。
「急にどうしたんだよ」
伊地知はハンドルを握ったまま、微動だにしない。
「……す、すみません五条さん。今、連絡が入りまして」
バックミラー越しに目が合いそうになって、伊地知が慌てて逸らした。
顔が完全に終わってる。
「……なに?」
伊地知は言いにくそうに口を開いた。
「至急、五条さんに向かって頂きたい任務が出来まして」
「は? 今日、夜からだったでしょ」
僕は苛立ちを隠す気もなく、バックミラーに映る伊地知を睨む。
「今日は悠仁に稽古頼まれてたんだけど」
「……す、すみません。ですが……」
「七海が行けばいいでしょ」
吐き捨てるように言うと、伊地知はハンドルを握り直して、息を飲んだ。
「七海さんは、ちょうど遠方に出張でして。 今すぐ向かえるのが……五条さんだけなんです」
「……」
舌打ちを鳴らしたくなるのを堪えた。
タイミングが最悪すぎる。
を見ると、唇を押さえるように手を当てていた。
目元はほんのり赤く、恥ずかしそうに瞬きしている。
(……僕のマンションでを抱いてから、高専に帰ろうと思ったのに)
ぐちゃぐちゃにして、の甘い声を何度も聞いて。
自分のものだって――刻みたかった。
でも、緊急なら仕方ない。
そう自分に言い聞かせて、内心の苛立ちを無理やり飲み込んだ。
「場所は?」
「……宮城県の、気仙沼付近の廃校です。窓からの情報だと……呪霊の数が多いようで」
それを聞いた瞬間、の目が大きく開いた。
(気仙沼って……)