第20章 「君の心をさらったその日から**」
があいつと並んで、廊下の奥の部屋に入っていった光景が、頭から離れない。
(あー……なんでこんな気持ちになってんの、僕)
視線をまた隣へ戻すと、は膝の上でスマホをいじっていた。
ほんの一瞬、画面が視界に入る。
『涼介お兄ちゃん』
その名前に、舌打ちしたくなった。
自分で自分が面倒くさい。
こんな僕を傑がみたら、間違いなく笑うだろう。
(……だっさ)
こんなの、普通のことでしょ。
幼馴染なんだから。
あいつに、お礼のメッセージでも送ってるんだろう。
「牛タンありがとう」とか、「久しぶりに会えて嬉しかった」とか。
でも。
あいつの名前が画面に出てるだけで、
僕の知らないが、また戻ってくる。
あいつと昔話してた顔。
並んで歩いてた背中。
手を振りほどいて逃げたときの「ごめんなさい」。
僕が両親の話をしかけたときの、あの顔。
(そういうの全部、まとめて――気に食わない)
無意識に小さく舌打ちが漏れた。
がそれに気づいたのか、手を止めて顔を上げた。
「……先生?」
いつもの、あの困ったような……でもどこか気遣うような目。
僕はサングラスを外して、伊地知に呼びかけた。
「――伊地知」
「は、はいっ!?」
急に名前を呼ばれた伊地知はびくっとして、慌ててミラー越しにこちらを見る。
「音楽でも、ラジオでもいい。なんかつけて」
「……え?」
「あと、今から絶対にこっち見るなよ。前だけ見てろ」
「……あっ、はい……!」
伊地知が慌てて手を伸ばして、カーオーディオをつけた。
『――続いて、都内の交通情報です。首都高は――』
車内にラジオが流れると、僕は隣にいるの腕を掴んだ。