第20章 「君の心をさらったその日から**」
「はい。おばあちゃんが、食べきれないからって。 みんなで食べて、って言ってました」
はそう言って、微笑んだ。
「高専戻ったら、皆さん喜びますよ。……ね?五条さん」
伊地知が何かを察したのか、僕にも話を振った。
車内の空気が悪いの、僕のせい?
「うん。そりゃ喜ぶでしょ」
適当に返して、窓の外に視線をやる。
伊地知は「じゃ、じゃぁ……牛タンは学生の皆さんで食べてもらいましょうか」と笑っているが、笑い方が若干ひきつってる。
……そもそも。
あいつがのために持ってきたお土産を、なんで僕が食べなきゃいけないわけ?
顔は窓の外に向けたまま、視線だけ隣へずらす。
が、こっちを見ていた。
(なにその顔)
申し訳なさそうにしてる。
さっきの“ごめんなさい”の続きみたいな顔。
(謝るくらいなら、最初から線引かないでよ)
怒ってるわけじゃない。
……いや、怒ってないって言ったら嘘か。
でも、怒りたいわけでもない。
「……はぁ」
気づいたら、大きく息を吐いていた。
伊地知がバックミラー越しに僕を見る。
それから慌てたみたいに、声のトーンを上げた。
「そういえばさん、桃って、切る前に“手のひらでコロコロ転がす”と柔らかくなって、切りやすいらしいんですよ」
「そうなんですか?」
「あ、でも転がしすぎると傷むみたいなので、ほどほどで……!」
伊地知が饒舌になる。
必死だな。
そのやり取りを聞きながら、僕はもう一度窓の外に視線を流した。
流れていく街並み。
もう、の実家は見えない。
は今、僕の隣にいる。
それに――これから先も。
……それで、いいじゃん。
過去は過去。
羨むようなものじゃない。
僕が気にすることじゃない。
『あ、……きょ、今日は……また今度でも……』
あれだって、断られたわけじゃない。
の中で、覚悟ができてないだけ。
そういうことにしておけば、楽なのに……