第20章 「君の心をさらったその日から**」
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「またね、涼介くん。さっちゃんによろしくね〜」
「はい。伝えておきます。お邪魔しました」
涼介はおばあちゃんに会釈し、のほうを見た。
「ちゃん、またね」
「うん、お兄ちゃんまたね。ばいばい」
も笑って手を振っている。
僕は少し離れたところで、その光景を見ていた。
(……早く帰れよ)
涼介は最後に、律儀に僕のほうにも軽く頭を下げ、玄関を出ていった。
扉が閉まる音が静かに響く。
は振り返ると、僕のほうに歩いてきた。
「先生、すみません。朝ごはん、途中になっちゃって……」
「いや。気にしないでよ」
短く返すと、はちらっと腕時計を見た。
「伊地知さん、そろそろ迎え来ちゃいますね」
慌ててキッチンのほうへ向かおうとする、その背中を僕は考えるより先に手を伸ばしていた。
の手首を掴む。
「せんせ……?」
は振り返り、不思議そうに僕を見た。
言えば、困らせる。
分かってる。
それでも――今、言わないと駄目だと思った。
一度だけ息を飲んでから、口を開く。
「……僕も」
掴んだ手に、力を込める。
「の両親に挨拶したい」
そう言った瞬間、彼女の目が揺れた。
戸惑いが混ざっているのが、はっきり分かる。
は耳に髪をかけながら、少し困ったように笑ってみせた。
「あ、……きょ、今日は……また今度でも……」
「……なんで? あいつは、いいのに?」
自分でも声色が低くなるのがわかった。
それでも、聞かずにはいられなかった。
「“お兄ちゃん”だから? それとも……」
そこで、言葉を切った。
続けたら、もっと嫌な言い方になる。
「それは……その……」
そこまで言って、またが黙ったそのとき。
タイミングを見計らったように、玄関のチャイムが鳴った。