第20章 「君の心をさらったその日から**」
自分でも思う。だいぶ大人気ない。
でも仕方ないでしょ。だって――
(の“嬉しそうな顔”を、勝手に引き出すなよ)
そいつは帰ろうと踵を返した……はずなのに、ふと立ち止まって口を開いた。
「帰る前に、ちゃんのおじさんとおばさんに挨拶していこうかな。いいですか?」
「もちろんよ〜」
おばあちゃんはに振り返る。
「、牛タン、お父さんとお母さんにも見せてきなさいな。二人も好きだったでしょ?」
「あ、うん」
が頷いた瞬間、涼介が思い出したように笑った。
「そういやちゃん、昔おじさんとおばさんが牛タン食べてたら、急に泣き出してさ」
「“牛さんがおしゃべりできなくなっちゃう!”って大泣きして。おじさんたち、めっちゃ焦ってた」
「うそ、そんなこと言ったっけ……やだ、恥ずかし……!」
は顔を赤くしながら苦笑して、涼介の腕を軽く叩いた。
そんな他愛もない会話を交わしながら、
二人は紙袋を手に、並んで歩き出した。
肩を並べて、廊下の奥――仏壇のある部屋へと向かっていく。
僕はただ、それを見ていることしかできなかった。
いつもの僕なら、空気なんて読まずに割って入ってたはずだ。
でも――今回は、なぜかできなかった。
彼女があいつと並んで歩く、その後ろ姿がどうしようもなく目に残る。
(あいつは、いいんだ)
あいつは――“あの部屋”に入れる。
昔から知ってるから。
の両親の話にも、何の躊躇もなく触れられる。
わかってる。
は、悪くない。
勝手に踏み込めない場所があって当然だし、
昔からの関係があるのも、当たり前。
遠くで襖が閉まる音が聞こえた。
それはまるで、彼女の過去と僕との間に、静かに境界線が引かれたようだった。
……僕が一緒にいるはずの、彼女の“今”と“未来”。
それでも、君の“全部”には届かない。
どんなに時間を共にしても。
どれだけ抱きしめても。
の世界には――僕が隣に立てない場所がある。