第20章 「君の心をさらったその日から**」
「涼介くん。こちらは、五条先生。の担任の先生なのよ」
「担任の先生……?」
涼介が目を丸くした。
それから、僕をちらっと見て、もう一度を見る。
その視線の往復が、妙に気に入らない。
おばあちゃんは、その微妙な間なんて気にも留めず、続けた。
「昨日ね、五条先生、ひょんなことからうちに泊まることになって。 今ちょうど、みんなで朝ごはん食べてたところなの」
「泊まり……? そ、そうなんだ」
涼介の声が、少しだけ上ずった。
僕を少し訝しげに見てる。
なんだよ。
担任の先生は、生徒の家に泊まっちゃダメなわけ?
「涼介お兄ちゃん、こんな朝早くどうしたの?」
がそう尋ねると、涼介は手にしていた紙袋を持ち直す。
「大学が夏休み入ったから、昨日帰省したんだ」
「これ、お土産です。 皆さんでどうぞ」
そう言って、紙袋を差し出した。
おばあちゃんが受け取って中を覗いた瞬間、声が弾んだ。
「まあまあまあ! 伊達の牛たんじゃなーい!」
取り出されたのは、発泡スチロールの箱にぎっしり詰まった、冷凍の牛タンセットだった。
大学生の帰省のお土産という割には、だいぶ豪華だな。
「ありがとねぇ。こんなにたくさんもらっちゃって……」
も箱を覗き込んで、目を少しだけ丸くしている。
「母さんから、ちゃんもちょうど帰ってきてるって聞いて」
「ちゃん、牛タン好きだったじゃん」
「ありがとう。涼介お兄ちゃん」
はそう言って、嬉しそうに微笑んだ。
(……また、その顔)
さっきも“綺麗になった”で照れてた。
今も、素直に嬉しそうな顔して。
が牛タン好きってことも、初めて知った。
後で、東京の美味しい牛タンのお店、伊地知に調べさせよ。
おばあちゃんが思いついたように、涼介に尋ねた。
「お礼って言ったらなんだけど、涼介くんも朝ごはん食べてく?」
「いや、今日はお土産渡しに来ただけですから。俺はこれで……」
よし。牛タンだけ置いて、さっさと帰れ。
できれば二度と来るな。