第20章 「君の心をさらったその日から**」
「朝から誰かしら?」
おばあちゃんは箸を置いて立ち上がり、玄関へ向かった。
「はーい、ちょっと待っててね〜」
ぱたぱたと遠ざかる足音。
が箸を持ったまま、僕を見る。
「……伊地知さん、かな?」
「伊地知だったら、待たせておけばいいって」
「でも……」
「僕が“待て”って言えば尻尾振って待つよ、あいつは」
「そんな犬みたいな……」
そんなやり取りをしていると、おばあちゃんがキッチンに戻ってきた。
だが、その後ろにはひとりの青年が見えた。
年の頃は大学生くらい。
手には紙袋。
日に焼けた健康な肌に、Tシャツとジーンズ。
(……誰だ?)
そう思った、その瞬間。
「あ……涼介お兄ちゃん」
の声が少しだけ弾んだ。
その表情は驚きと、懐かしさが混じったもの。
(お兄ちゃん?)
その青年――涼介はに気づくと、ぱっと顔を明るくした。
「ちゃん。久しぶり。大きくなったね。あと……綺麗になった」
そう言われて、の頬がほんのり赤くなる。
「あ、え……そ、そんなことないよ」
(……は?)
“綺麗になった”って……誰目線だよ。
てか、も嬉しそうにしてるし。
自分でも驚くくらい、感情が荒れる。
「あ……」
涼介が僕に気づいた。
少し驚いたように目を瞬かせてから、軽く会釈をする。
僕が首を傾げていると、が慌てて口を開いた。
「あ、先生。 こちらは、近所に住んでる青山涼介くんです」
「涼介お兄ちゃんのお母さんと、うちのおばあちゃんが友達で。 小さい頃、おばあちゃん家に来たときは、よく一緒に遊んでて……」
“幼なじみのお兄ちゃん”。
(……そういうことか)
だから、あの距離感か。
だから、ああいう言い方か。
頭では理解できても、感情は全然追いつかない。
「初めまして。青山涼介です」
涼介があらためて僕に軽く頭を下げると、おばあちゃんが僕を紹介した。