第20章 「君の心をさらったその日から**」
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翌朝。
カーテン越しに射し込む光で、自然と目が覚めた。
まだ強すぎない、やわらかい朝の色。
階下から、包丁のトントンという音が聞こえた。
味噌汁の香りが、鼻先をくすぐる。
階段を下りてキッチンに行くと、が立っていた。
エプロン姿で、少し真剣な顔。
フライパンの前で卵焼きを返している。
「おはよ、」
声をかけると、
は振り返って、笑顔で答えた。
「あっ……先生、おはようございます」
「先生も、朝ごはん食べていってください」
テーブルにはすでに、三人分の茶碗と箸。
ご飯茶椀に盛られた白いご飯から、ゆっくり湯気が立っている。
ほどなくして、おばあちゃんも姿を現した。
「おはよ〜。あら、先生も早いねぇ」
そう言いながら、おばあちゃんは伸びをひとつして、テーブルの椅子に腰を下ろした。
「いやぁ、昨日はちょっと飲みすぎちゃったわ〜」
額を軽く押さえて、苦笑いするおばあちゃん。
が卵焼きを皿に移しながら、少しむっとした声を出す。
「もう! だから言ったじゃん」
「だって久しぶりに楽しくて。先生もいたし?」
「先生は関係ないでしょ。いっつもそうなんだから」
は小さくため息をついてから、味噌汁をよそい始めた。
その手際の良さに、つい見入ってしまう。
きっと高専に来るまでは毎朝こうして、朝ごはんを用意してたんだろう。
テーブルに並んだのは、卵焼き、味噌汁、炊きたてのご飯。
漬物と、鮭の塩焼き。
そして、食後のデザートの桃。
の家の朝ごはん。
そこに、当たり前のように自分の席が用意されている。
(……昨日、僕は何を焦ってたんだろ)
「家族になっちゃおうかな」なんて、口にして。
……別に、急ぐ必要ない。
が笑って、たまに困って、たまに怒って。
そうやって少しずつ、僕のいる場所を広げてくれれば――
それで、十分だろ。
「いただきます」
箸を取って、まず卵焼きに手を伸ばす。
一口食べた瞬間、思わず声が出た。
「うまっ! 、料理うまいねー」
素直な感想だった。