第20章 「君の心をさらったその日から**」
は少しだけ唇を噛んで、こっちを見た。
「……ごめんね、先生」
「謝んなくていいって」
口ではそう言いながら、ほんとは謝られたほうが余計に困る。
「あ……お水ください」
「うん……」
持っていたペットボトルを差し出すと、は受け取って飲み始めた。
喉が動くのを、なんとなく目で追ってしまう。
(両親の話を聞こうとしたときも、今も)
どこかで、同じ感覚がした。
線を引かれたみたいな――
それ以上は、踏み込ませない距離。
おそらく、これがが一人で抱えている場所。
最初は、無理に立ち入るつもりはなかった。
でも、君のことを知れば知るほど――
もっと心を開いてほしいなんて。
心の全部なんて欲張りすぎだろ。
所詮は他人だ。
の悲しみや苦しみを知ったからって、全てを理解できるわけじゃない。
わかってる。
なのに。
(……なんで、こんなにモヤっとするんだろ)
はもう一口水を飲んでから、ペットボトルを膝の上に置いた。
「……先生も飲みますか?」
そう言って、小さく笑いながらペットボトルを差し出してくる。
その笑顔はいつも通りで、何も隠しているようには見えない。
「ありがと」
受け取りながら、おばあちゃんの言葉がよみがえった。
『あの子ね、ずっと思ってるのよ。両親が死んだのは、自分のせいだって』
その言葉が、静かに心に沈んでいく。
気づいたら、の頬に触れていた。
ほてった肌に、僕の冷えた指がじわっと馴染んでいく。
「ひゃ……っ、先生、くすぐった……」
が身を竦めて、笑いながら首をすくめる。
それでも僕は、優しく撫でるように指を滑らせた。
見せてよ。
聞かせてよ。
教えてよ。
君が一人で抱えてきた時間も、
一人で泣いた夜も、
誰にも言えない思いも。
全部、僕の手の中に落ちてきてほしい。
そうしたら――
君が抱えてる悲しみや苦しみから、
僕がをさらってあげられるのに。