第20章 「君の心をさらったその日から**」
「ひとつはね……死んだ人のことだけを、朝から晩まで考えること。 起きてから寝るまで、ずーっとその人のことを思い続けるのよ」
「もうひとつは、仕事でも勉強でもなんでもいいから、打ち込むの。死んだ人のことは……一切、考えないようにね」
「……ずいぶん、極端だね」
思わずそう言うと、おばあちゃんはふっと笑った。
「私はどっちもやったのよ」
少し間を置いて、ぽつりと続ける。
「が生まれる前なんだけど……主人が、早くに亡くなってさ」
「最初はもう、一日中泣いてた。 朝起きても、夜になっても、何してても悲しくて」
「おばあちゃんが?」
「ふふ。私だって、そんなしおらしい一面もあったのよ」
グラスの縁をなぞりながら、声を少し落とす。
「でもね、そのうち疲れちゃって。 今度は、必死に考えないようにした」
「そうしたら……死んだ人を置いて、自分だけ前に進んでる気がして。 申し訳ないな、って思っちゃってね」
「じゃあ、どっちもつらいじゃない」
僕の言葉に、おばあちゃんは小さく肩をすくめた。
「そうなのよ。どっちもしんどかった」
それから、少し考えるように視線を落とす。
「ただね……途中で、ふと思ったの。 あの人なら、私にどうしてほしいかな、って」
「泣いてばっかの私を見たら、たぶん嫌がっただろうな、って」
おばあちゃんはグラスを置いて、静かに言った。
「どっちを決めるかは、亡くなった人なのよ――その人が生きてる私たちに、どう生きてほしいか」
「私はそれを想像しながら、生きることにしたの」
「その後、が生まれてね。 だから、亡くなった主人の分も、を目一杯可愛がろうって決めたの」
「でも、可愛がりすぎて、つい怒らせちゃうのよねぇ」
そう言って笑うおばあちゃんを見ながら、僕も一緒に笑う。
でも、頭の中にはあいつの顔が思い浮かんだ。
傑は僕にどっちを望んだんだろう。