第20章 「君の心をさらったその日から**」
「まだ、話――」
「君は五条悟だから最強なのか? 最強だから五条悟なのか?」
遮るように、傑が言った。
「生き方は決めた。後は自分にできることを精一杯やるさ」
そう言って、傑は背を向けた。
もう一度呼び止めようとしたが、足が固まったように動かなかった。
「おい、傑!」
必死に声を上げても、もう届かない。
「傑……っ」
傑の輪郭が、闇の中に溶けていく。
結局、また夢の中ですら僕は――
僕は、あいつを引き止められなかった。
一人にしてしまった。
そして、また僕は置いていかれたままだ。
「……くそ」
握りしめた手の中は、空っぽだった。
虚しさ、悔しさ、哀しみ。
名前をつけられない感情が絡まり合って、胸の奥で重たく沈んでいく。
そのとき――
ひらり、と。
視界の端で、何かが揺れた。
風に乗って、小さくて白い光が舞い降りてくる。
雪? ……いや、違う。
花びらだ。
一枚、また一枚。
頬に、肩に、髪に触れては消えていく。
「……あったか……」
やがて、一枚の花弁が僕の手のひらの中へ落ちてきた。
掴んだはずのそれは、何の感触もないのに。
不思議と、じんわりとした温度が伝わってくる。
さっきまでの寂しさも、後悔も、怒りも、虚しさも。
全部その一枚に、そっと包まれていくようだった。
――僕はその温かさに身を委ねて、ゆっくりと目を閉じた。
まぶたの向こうから差し込む光が、じわりと視界を染めていく。
頭が重い。
口の中が乾いてる。
身体の下には布団の柔らかさ。
目を開けると、見慣れない天井が見えた。
ここどこ?
なんで、僕寝てんの?
ああ、そうだ。
僕、の実家に来て……
「あ、先生……起きましたか?」
少し控えめで、でも安心したみたいな声。
その声だけで、身体より先に心が起きる。
「よかったー。お酒飲んで倒れちゃったんですよ……ほんと、びっくりしました」
僕の顔を覗きながら、優しく笑っている。
その笑顔を見た瞬間、触れたくてたまらなくなった。