第20章 「君の心をさらったその日から**」
「あの子といると、最強とか呪術師とかどうでもよくなる……」
気づけば、自然と口元が緩んでた。
それを見た傑が、目を瞬かせて驚いている。
「それ……だいぶ本気だな。 まさか、悟からそんな話を聞く日が来るとはね」
「いいだろ。 出会っちゃったんだよ」
照れ隠しみたいにそう返すと、傑はにやっと笑った。
「なんか嫉妬するなぁ。先越された」
「は? お前、さっき“みんな好き”って言ってただろーが」
「好きだけど、本気で“好き”とは違うんだよ」
「……やっぱ、お前の方がクズだろ」
「ははっ、ひどいなっ。でもまあ、否定はしないかな」
「しないのかよっ」
二人で笑った。
くだらないことで、ああだこうだ言い合って。
何気ないやり取りが、懐かしくて、愛おしくて。
ずっと、こんなふうに話したかった。
のことを。
どんなふうに出会って、
どうやって付き合って、
どんなふうに、結ばれたのか。
「……その子、って言うんだけど――」
続きを話そうとしたその瞬間――
さっきまで、そこにいたはずの傑がいなかった。
まるで最初から、誰も座っていなかったみたいに。
「……傑?」
呼んでみるが、返事はない。
教室の空気が、すうっと冷えていく。
蝉の声は、いつの間にか消えていた。
僕は立ち上がって、教室の扉に手をかけた。
扉を開けた、その先。
広がっていたのは、底の見えない闇。
ただ、黒い空間が永遠に広がっている。
暗闇の中を少し走ると、見慣れた背中が遠くに見えた。
「傑!」
呼びかけると、傑が立ち止まった。
ゆっくりと振り返る。
そこにいたのは、“あの時”の傑だった。
高専を去った、あの日と同じ。
「どこ行くんだよ」
近づこうとするが、足が異常に重い。