第20章 「君の心をさらったその日から**」
「もしもし……は? いや、学校だけど」
あー、思い出した。
一度遊んだだけの子か。
しつこいんだよな、あの子。
向こうが泣き声まじりでなにか言っている。
それを受け流しながら、適当に合いの手を打つ。
「……今? 無理。授業サボってまで行く理由ないし。わかるよね?」
「あー、……めんどくせーから、もう連絡してこないでくれる?」
そう言って、一方的に通話を切った。
ガラケーを机に放って、でかいため息を一つ。
「一回寝ただけで、どうして女ってのは彼女ヅラしてくんの?」
「そんな態度だと、いつか呪われるよ、悟」
ニヤニヤ笑いながら言う傑に、鼻で笑った。
「お前のほうがよっぽど遊んでるだろ」
「僕は遊びで付き合ったことは一度もないよ。みんな、ちゃんと好きだからね」
「そのほうがタチ悪いだろっ」
互いに皮肉交じりの軽口を交わせるこの時間。
教室の窓の外では、蝉の声。
湿った夏の風。
あの頃のまま、全部そのまま。
「悟もそろそろ、好きな子の一人や二人できてもいい頃なんじゃないか?」
そう言いながら、傑が口元に笑みを浮かべた。
僕はシャーペンをくるりと指で回してから、天井を仰いだ。
高専の時は、誰かを好きになるとか考えられなかった。
でも、今は――
「あー……実はさ、いる」
傑が目を見開いた。
「え、マジ? 悟が? 今日、雪でも降る!?」
「お前なぁ……」
「どんな子? 高専の子?」
傑が面白そうに目を細める。
からかう気、満々だな。
傑の問いにすぐに答えられなかった。
けど、僕の頭の中には、あの子の顔が思い浮かんでる。
泣き虫で、不器用で、恥ずかしがり屋で、すぐ顔が赤くなる……
すごい美人ってわけじゃない。
でも、僕が名前を呼んだときに、ふにゃっと笑う顔が可愛くて。
それに、一緒にいると妙に心地いいんだよな。
僕が“五条悟”であることを、忘れそうになるくらいに。
まだ僕よりずっと若いのに。
あの子にはどうしてか、包まれるようなあたたかさがあって……