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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第5章 「境界に口づけて」


支えを失ったひとみの体が、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。



「……っ!」



五条は素早く腕を伸ばし、その小さな体を抱きとめた。


冷たい。
まるで今しがたまで別の何かに占拠されていた証のように。



「……悠蓮」



低く名を呼ぶ。



「そいつが……の力の原因なのか」



独白のような声が、虚しくトイレの静寂に吸い込まれていった。


***


は息を呑み、瞼を開いた。


そこは――また、あの場所。


果てしなく続く白い花の海。

吹き抜ける風が花弁を巻き上げ、肌をかすめるたびに、足元がふわふわと浮く。
自分の体が、自分じゃないみたいだ。


――その時。


『目覚めたか』


背後から、あの声が降ってきた。


振り返る。


そこに――いた。


夢で幾度も見た女。
雪のように白い肌。夜の水を思わせる黒髪。
そして、全てを見透かす翠の瞳。


の心臓が一度だけ大きく跳ねた。


『怯えるな』


女は、ゆっくりと歩み寄る。
その声音は母のように優しく、底知れぬ深みを孕んでいた。


『私はお前を喰らうためにいるのではない』

「……なに、言って……」


声が震える。
視線を逸らしたいのに、翠の瞳が釘のように心を打ちつける。


『我が名は――悠蓮』


名を告げた瞬間、花々がざわめき、世界がその名を讃えるように風が吹き抜けた。


『お前は私の器だ』


冷たい指先がの頬を撫でる。
触れられた場所から、ぞくりとした寒気と熱が同時に広がる。


『だが、それは奪うためではない』

「……器……? そんなの……」

『いずれお前が生き延びるために――私の力が必要になる』


一言ごとに、胸の奥が締めつけられていく。
不気味で、恐ろしいのに――なぜか抗えない。



「……いや……来ないで……!」



後ずさる足は、地面に縫い付けられたみたいに動かない。
悠蓮はそんなを見下ろし、どこか慈しむように微笑んだ。


『恐れるな。拒んでも、抗っても――』


その声音は甘美な呪いのようだった。


『――時が来れば、お前は私と一つになる』


突風が吹き抜け、白い花弁が視界を埋め尽くす。
世界が音を失い――


の意識は、闇に沈んだ。
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