第20章 「君の心をさらったその日から**」
見事すぎるほど綺麗に、先生が背中から畳の上に倒れ込んだ。
「せ、先生っ!!?」
私は慌てて駆け寄り、顔を覗き込む。
目を閉じたまま、ぴくりとも動かない。
「……寝てる……?」
伊地知さんが、先生の手元に転がった缶を拾い上げる。
「五条さん、ジュースと間違えたみたいですね。これ、アルコール三%です」
ラベルをよく見ると、小さな字でそう書かれていた。
パッケージだけ見たら、ジュースそのものだ。
「ど、どうしよう……っ」
私が呆然とつぶやく横で、おばあちゃんはなぜか感心したように頷いた。
「……下戸って聞いてたけど、一口でこうなるとわねぇ」
いや、感心しないで!?
おばあちゃんは、ぽんと手を叩いて言った。
「じゃあ――今日はうちにお泊まりだね、五条先生」
……え?
え、ちょ、ちょっと待って。
伊地知さんは「では、明日の朝に迎えに来ます」と頭を下げ、おばあちゃんは片付けに移っている。
キッチンへと歩いていく背中を、私はただ目で追うことしかできなかった。
私だけが取り残されたみたいに、その場に立ち尽くした。
先生が、うちに泊まる?
畳の上に大の字で眠るその人は、あまりにも無防備で。
白い髪が、呼吸に合わせてゆっくりと揺れている。
頬はうっすら赤く、熱を含んだ寝息が静かに漏れていた。
先生が、こんなふうになってしまうなんて。
お酒って、すごい。
おばあちゃんは「少しすれば起きるよ」と言っていたけど……ほんとに、大丈夫かな。
私は心配で先生の隣に座り、おばあちゃんが持ってきてくれたブランケットをその肩にかける。
心配と、戸惑いと、ほんの少しの高鳴り。
――こうして。
今度は、先生が。
私の実家に泊まる夜が始まった。