第20章 「君の心をさらったその日から**」
女性が歩き出そうとすると、五条はさっと手を伸ばして女性が持っていた段ボールを受け取る。
「重そうだし、僕が持つよ」
「あら〜、見た目だけじゃなくて、気も利くのね」
五条は箱の中の大量の桃を見て女性に聞いた。
「すごい数の桃だね」
「ご近所からのお裾分け。孫が桃好きだから、ちょっと多めにもらってきちゃった」
「へぇ、孫いるんだ? 見えないね」
「嬉しいこと言ってくれるわねぇ。ちょっと奥手なんだけど、優しくて可愛い子なの。ちょうど帰ってきてるのよ」
「ふーん、そんな可愛いんだ?」
「そりゃもう。最近、彼氏できたみたいで。お兄さんみたいな人、連れてきたら安心なんだけどねぇ」
「それは、難しいでしょ、僕みたいなイケメンナイスガイなかなかいないから」
そんな他愛もない会話を交わしながら、女性と五条は住宅街の一角へ。
その様子を後ろで見ていた伊地知は、小さく首を傾げていた。
(あの女性の方、誰かに似ているような……)
やがて、たどり着いたのは小ぢんまりとした二階建ての一軒家だった。
庭先にはいくつものプランターが整列し、軒先で風鈴が涼しげに揺れている。
古びてはいるけれど、どこかあたたかい。
“帰ってきたくなる家”という言葉が、まさにしっくりくる佇まいだった。
女性はドアを開け、明るい声で中へ呼びかけた。
「ただいまー! 桃、もらってきたよー! あとついでに若い男二人拾ってきちゃったー!」
陽気な声が家の中へと響くと、廊下の奥からぱたぱたと軽い足音。
「おばあちゃん!? ちょっと、若い男って、どういう――!」
飛び出してきたその声に、五条と伊地知は同時に顔を上げた。
「?」
「さん!?」
もまた、玄関に立つ二人を見て、ぽかんと口を開ける。
「先生? 伊地知さん? なんで、ここに……」
祖母もまたと五条たちを交互に見比べ、同じように口を開けた。
「えっ……? の知り合い? 先生?」
誰もが「まさか」と思ったその邂逅の中で、
風鈴がチリンと鳴り、桃の甘い香りが夏の風と共に家の中へと流れていった。