第18章 「血と花の話をしましょう**」
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病院の外は街灯の光は滲み、駐車場のアスファルトにぼんやりと反射している。
男は病院から出ると、玄関前に停められた黒い車へと真っ直ぐに向かった。
そして、後部座席のドアを開け、彼は何も言わずに乗り込む。
足を組み、背もたれに静かに体を預けた。
「……病院というのは、どうしてこうも空気が重いのでしょうね」
その声を受けて、運転席にいた男がルームミラー越しにゆっくりと振り返る。
鋭い眼光と整った身なり。
スーツに身を包んだその男が、恭しく問いかける。
「諏訪烈様。……花は、受け取っていただけましたか?」
諏訪烈は意味ありげな笑みを浮かべながら、静かに答えた。
「ええ。きっと、彼女は気に入ったはずですよ」
「君の方は、どうですか? 水原」
促され、水原と呼ばれた男が淡々と答える。
「はい。本日、“還しの部屋”までのアクセスが確認されました。 注文も入っています」
「そうですか。タネは撒かれた。あとは……どこに咲くか、見ものです」
外を流れる街の灯りが、窓ガラスに揺れを落とす。
水原が静かに言葉を継いだ。
「高専の方は、どうなさいますか?」
諏訪烈は愉しげに呟いた。
「花が咲いた後、あえて痕跡を残しましょう」
「五条悟のことです。気づけば、必ず乗ってくる。……自分で選んだつもりで、ね」
その声音には、静かに獲物を待つ狩人のような冷たさと、
同時に、旧友との戯れを思わせる歪な親密さが滲んでいた。