第18章 「血と花の話をしましょう**」
あの映像が、まだ目に焼きついている。
血の匂いも、焦げた匂いも、鼻に残ってる。
手が震えていた。
手のひらに残る“感触”が、拭っても取れない。
刀で人の肉を断った確かな“感触”が。
(……殺した? 悠蓮が?……)
新田さんも私の様子に気づいて、駆け寄ってきた。
「さん!? どうしたんすか!?」
まだ膝が震えていた。
ぐらつく体をなんとか支え、奥さんの方へ顔を向けた。
「……この花……っ」
「……この、アネモネ……っ……誰……誰からもらったんですか……?」
語尾が掠れる。
自分でも、こんな声が出るとは思わなかった。
奥さんは驚いたように私を見つめ、言葉を探すように口を開いた。
「……ええと……確か……」
記憶をたぐるように、ゆっくりと話し出す。
「主人の容態が急変して……深夜に救急で運ばれた日でした」
「病院の待合室で、ひとりでいたとき……」
「……男の人が来て、この花をくれたんです」
隣にいた新田さんが、息を呑む気配がした。
「……男……?」
奥さんは頷いた。
「ええ。一瞬、女の人かと思ったけど……」
「……銀髪で、綺麗な顔の男の人でした」
心臓が、一度止まったような気がした。
分かってたはずなのに。
頭では、とっくに答えが出ていたはずなのに。
でも、こうして他人の口から“その姿”を聞くと――
自分の世界の外側に、確かに“彼”が存在していたと突きつけられる。
諏訪烈。
私の前に現れた、あの日からずっと。
ゆっくり、ゆっくりと彼は、近寄ってきている。
まるで……最初から、そうなることが決まっていたみたいに。
世界が呪いのように、“彼”のもとへ私を導いているみたいだった――