第18章 「血と花の話をしましょう**」
「……ああ、そうだ水原」
「君は“港”の任務で、に顔を覚えられている」
ハンドルを握る水原の指が、わずかに強張る。
「はい。高専側でも、指名手配されているようです」
「今回は表には出ず、静かに根を伸ばしてください。……腐らせないように」
「承知しました」
沈黙の中、諏訪烈は静かに目を閉じる。
そのとき、スマートフォンが震えた。
画面に映る名を見て、諏訪烈は電話を取る。
「――ええ、順調に進んでますから、そんなに急かさないでください」
しばしの沈黙。
相手の声が一瞬大きくなり、スピーカー越しにかすかに漏れそうになる。
だが、諏訪烈は淡々と続けた。
「……向こうには、五条悟がいるんです」
「そう簡単にはいきませんよ。それは、あなたが誰よりもよくご存知でしょう?」
そして、ゆっくりと微笑みながら言った。。
「五条悟を殺す方法なら……もうとっくに、見つけてありますから」
その声に、水原がわずかに視線を揺らす。
だが、諏訪烈の表情は変わらなかった。
「まぁ、あなたはこのまま、私の言うとおりに動いてください」
「焦ることはありません。美しいものには、時間が必要ですから」
通話を切ったあと、彼はスマートフォンを傍らのシートに伏せ、
静かにひとつ息を吐いた。
「……この時代は、せっかちな人が多いですね」
「花が咲くのを待てないなんて。……愛でる時間すら、失ってしまったのか」
助手席の水原が、ルームミラー越しに小さく笑う。
「諏訪烈様らしい、お言葉です」
諏訪烈は、その言葉に気まぐれな微笑で返した。
車内に静寂が落ちる。
夜の街の奥にある闇を見据えるように、諏訪烈は目を細めた。
「……私と、そして悠蓮。三人だけの“新しい世界”を創るために――私は、千年も待ったのです」
その瞳には、狂気と微かな憧憬が滲んでいた。
「水原、話の途中でしたね。では、……」
「――血と花の話を、しましょう」
✦ 第18章 了 ✦