第18章 「血と花の話をしましょう**」
思考も、重力も、音も、全部吹き飛んでいった。
頭の中に映像が、無理やり流れ込んできて。
誰かが叫んでる。
あたり一面は血の海。
何人も、いや何十人もの死体が転がっている。
血の匂いがして……風が唸ってる。
その真ん中には――
悠蓮がいた。
長い黒髪は真っ赤に濡れ、肩が上下している。
ただ、俯いたまま。
一歩も動かず、そこに立ち尽くしていた。
後ろで火柱があがってた。
火の音、熱、煙、全部が重なって、視界が歪む。
だけど、悠蓮の姿だけは、異様なほどはっきりと見えた。
その手には、刀。
その刃が通った地面が、ざっくりと割れてる。
刃は赤い血を吸いすぎて、真っ黒だった。
(……これ、なに?)
(なんで――)
(なにが起きたの――?)
理解が追いつかない。
呼吸ができない。
身体の奥で何かが悲鳴をあげているのに、声にならない。
悠蓮の足元、死体の間にも、赤い花が落ちていた。
潰れて、折れて、それでも――
美しいほどに、鮮やかだった。
赤いアネモネ……。
炎の色と混ざって、全部が赤く見えた。
息をするたび、焼けた空気が肺に入ってくる。
目も、喉も、痛い。
でも――逸らせなかった。
悠蓮が……顔を上げた。
翠の瞳。
その奥に、光はなかった。
でも、“私”を見てるってわかった。
悠蓮の唇が動き、何かを言おうとしたそのとき――
視界が、真っ暗になった。
「――っ……!」
力が抜けて、私は膝をついた。
空気が、重力と共に戻ってくる。
「だ、大丈夫ですか?」
すぐ近くから奥さんの声がする。
けれど、耳鳴りがひどくて、ちゃんと聞き取れない。