第18章 「血と花の話をしましょう**」
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「さーん、おはようっす! ……って、ん?」
朝の宿泊ホテルのロビー。
明るい声が飛んできた瞬間、私は少しびくりと肩を揺らしてしまった。
振り返ると、新田さんが元気よく手を振っていた。
明るい金髪のボブスタイルに、耳元のピアスがきらっと光っている。
元ヤンらしいけど、補助監督さんの中では年も若くて話しやすい。
その新田さんが、じーっと私の歩き方を見てくる。
「なんか……歩き方、変じゃないっすか?」
「へ……っ、そ、そんなこと……」
言いかけたところで、思わず言葉がつかえた。
「なんかこう、ぎこちないっていうか……」
「……っ、い、いや……その、ちょっと筋肉痛で……」
普通に歩いてたらつもりだったけど……
太ももと腰がだるくて、歩くたびに身体に響く。
筋肉痛の理由は、一つしかない。
(だって……あんな何回も……)
昨夜のことが、脳裏にフラッシュバックする。
何度も抱きしめられて。
最後はもう何も考えられなかった。
先生に触れられたところが、まだじんわり熱を持ってる気がする。
「昨日の任務、筋肉痛になるぐらいハードだったんすか?」
首をかしげながら、新田さんは本当に不思議そうな顔をしていた。
そんな純粋に聞かれると、逆に困る。
「えっ、あ……あはは……」
思わず曖昧に笑ってしまった。
けれど、その笑いが自分でもぎこちないのがわかる。
顔が熱くなっていくのをどうにもできなかった。
(もー、先生のせい!)
新田さんはジッとこちらを見たあと、ふっと表情をゆるめた。
「無理しちゃダメっすよ。移動もあるし、しんどかったらすぐ言ってくれていいっすから」
明るく、でもどこか優しい声音。
その一言がかえって、胸に刺さる。
「だいじょうぶです、運動不足ですかね。あはは⋯⋯」
嘘を重ねるたび、申し訳なさが積もっていく。
新田さんは「そっすか」とだけ言って、それ以上つっこむことはせず、ぱんっと手を叩いた。
「じゃ、行きましょっか! あ、七海さんと五条さんは、さっき先に出発したっす」
「……はい」