第18章 「血と花の話をしましょう**」
カバンのストラップを持ち直して、少し遅れて新田さんのあとを追う。
「今日はご遺族の聞き取りでしたよね?」
「そうっす。亡くなった男性の奥さんと待ち合わせしてるっす」
「例の“花”のこと、もう近所ではちょっと噂になってるらしいんすよ」
「……そう、なんですね」
「早く収束させないと、っすね」
“花のこと”という言葉に、胸がざわつく。
ご家族は、あの白い花を見てどう思ったんだろう。
大事な人を亡くしただけでも、きっと辛かったはずなのに。
その遺体から、あんなふうに花が咲いてしまったなんて。
私が咲かせた花じゃない。
でも――
私がこの力を持っていて。
私がこの世界にいて。
だから、こういうことが起きたのだとしたら。
それを“自分とは関係ない”と割り切れるほど、私は冷たくなれない。
「さん、大丈夫ですか? 緊張してます?」
「え……っ、あ……」
顔を上げると、新田さんが少し覗き込むようにこちらを見ていた。
さっきまで頭の中でぐるぐるしていた思考が、いきなり現実に引き戻される。
「す、少しだけ。何か役にたつ情報が引き出せるといいんですけど……」
答えながら、自分の声が少しかすれていたことに気づく。
自分でも思っていたより、沈んでいたらしい。
新田さんは、ふっと優しく笑った。
「大丈夫っすよ。さん、話しやすい雰囲気あるし。変に構えないほうが、相手も安心すると思うっす」
「気合いいれて、がんばります!」
「いやいや、気楽にっすよ、気楽に〜!」
新田さんがふふっと笑いながら、私の肩を軽く叩いた。
「そ、そうでした……!」
思わず背筋を伸ばしたまま言ってしまって、自分でも可笑しくなってくる。
新田さんも、そんな私を見て「真面目だな〜」って笑ってて。
私もつられて、つい笑ってしまった。
ロビーの自動ドアが音を立てて開き、夏の空気がじんわりと肌にまとわりついた。
その向こうで、陽射しが眩しく揺れている。
気を引き締めるように、私は小さく深呼吸をした。
(もう、誰かが悲しむのは見たくない――)
こんな事件が繰り返されないために。
あの白い花が、なぜ咲いたのかを知るために。
そして、自分の力と向き合うために――。