第18章 「血と花の話をしましょう**」
(まじで、今すぐ押し倒したい)
喉まで出かけた欲を、ぎりぎりで飲み込む。
七海の言葉が、不意に脳裏をよぎった。
『関係とは、時間と手間と少しの想像力で――そうして築いていくものです』
いや、まずは。
との関係を育てなきゃ。
それが今の僕に一番足りてない。
「おじゃましまーす」
の返事を待たずに、部屋に入る。
(――)
君の世界を、ちゃんと見せてほしい。
どんなものが好きで、どんな時に笑って、何を怖がるのか。
まだ僕が知らない、君の“全部”を。
君が僕のことを好きだっていうことは知ってる。
でも、花を咲かせるんじゃなくて、ちゃんと言葉で聞きたい。
そして、僕の世界にも入ってきてほしい。
君には全部、知ってほしい。
わからなくてもいい。
でも、“わかろう”としてくれるだけで、
僕は、きっとそれだけで救われるんだと思う。
(まずは、一人でしちゃってた理由から聞こうかな)
笑みが頬に浮かぶ。
たぶん、すごく楽しそうな顔をしてると自分でもわかる。
に視線を戻すと、
目をぱちぱちさせながら、平静を装っている。
その仕草がたまらなく僕を掻き立てるの知らないの?
さりげなくベッドに腰を下ろすと、
彼女の髪がまだ濡れているのに気づいた。
ふわりと香るシャンプーの匂いが、僕の決意を惑わせる。
(……やば。好き)
そんな単語が、不意に脳裏をかすめて、
苦笑と一緒に、そっと手を伸ばす。
指が彼女の頬に触れそうなところで止めた。
両膝を開いて、招くようにぽんぽんと太ももを叩いてみせる。
「乾かしてあげるから、ここ、座って?」
少しだけ身体を引いてスペースを作る。
彼女がもじもじしながら座ると、僕の胸の中にすっぽりとおさまった。
髪の先が僕の腕に触れて、少しくすぐったい。
ふと視線を落とすと、
うなじから、首筋、耳の裏まで――彼女は赤く染まっていた。
どれだけ期待してるのかが、肌の色でまるわかり。
なのに、なにも言わず僕のあいだにちょこんと収まってる姿が、たまらなくてほんと理性が試される。
(僕、我慢するの――一番、嫌いなんだよね)
……七海、ごめん。
明日の朝、間に合わないわ。