第5章 「境界に口づけて」
「、お疲れサマンサ〜」
突然の明るい声に、はびくっとして顔を上げた。
「お、おおお疲れ様ですっ……!」
舌がもつれる。
自分でも情けないくらい声が裏返っていた。
五条は気にも留めず、にこりと笑って言う。
「安心してよ。初日から地獄の特訓なんてしないから」
「……えっ」
あまりにさらりとした口調に、は間抜けな声を漏らす。
(……今後は地獄ってこと……?)
頭の中で思わず突っ込んでしまい、余計に心臓がうるさくなった。
***
「じゃあまずは、小太刀の持ち方からね」
五条がそう言い、の手元に視線を落とした。
「握り方、ちょっと貸して」
大きな手がの指を一つひとつ解き、正しい位置に添えていく。
指先から手のひらまで、じんわりと熱が伝わってくる。
ただ手を整えられているだけ――そうわかっているのに、意識が全部そこに集中した。
「うん、いいじゃん」
「じゃあ素振りね。こうやって――」
背後に回った五条が、の肩に手を置く。
軽く、だけど支配するような感触。
「力入りすぎ。もっと肩の力抜いて。……そうそう」
耳元で声が落ちる。
首筋にかすかにかかる吐息。
その一瞬だけで、背中が震えた。
「体重の乗せ方。腰、ここ」
腰骨に沿って指先が触れる。
軽く押され、正しい位置へ導かれる。
(……こんなの、耐えられない)
自分の鼓動が、五条に伝わってしまいそうで怖い。
でも――離れたくなかった。
――その時。