第18章 「血と花の話をしましょう**」
言葉にならなかった。
笑みだけが、勝手に滲む。
これは、の“送る”魔導が発動した証。
苦しみの中で眠った魂を、送り出すときに咲く花。
誰かの心に触れたとき。
誰かの痛みに寄り添ったときに咲く。
でも――最近、気づいてしまった。
僕のことを考えたときにも、咲くってことを。
(、知らないんだよな。このこと……)
たまに、ちょっとえっちなこと考えてるときも咲いてるって。
……ま、教えるつもりはないけど。だって、面白いし。
手のひらの中で、光る白い花びらがそっと揺れて、
音もなく溶けるように、消えた。
その温もりの余韻だけが、そこに残る。
(僕のこと、考えてくれてた……?)
勝手な希望かもしれない。
でも、このタイミングで落ちてきたんだ。
都合よく勘違いするくらい、許されてもいいだろ。
さっきまで抱えてたモヤモヤなんて、どこかへ吹き飛んでた。
今すぐ触れたくて、名前を呼びたくてたまらなくなる。
知らないうちに、歩幅が自然と早まっていた。
部屋の前に立ち、ドアに手を伸ばす。
「?」
ノックをしながら、声をかける。
「起きてる?」
数秒の沈黙。
そして、中から――
「い、いま、いま開けます……っ」
とても慌てた、くぐもった声が返ってきた。
(……あー、なんでそんな声出すかな)
一体、一人で何してたんだか。
顔が勝手に緩んで、心までほだされてく感覚。
……まいったな、ほんとに。
ドア越しに漂う彼女の気配だけで、こんなに高ぶるなんて。
自分でも驚くくらいだった。
そしてドアが開いた瞬間――息を呑んだ。
は顔を赤くしていて、
目元はほんのり潤んでいて、呼吸が浅い。
(……おいおい)
この顔は知ってる。
さっき、あの花が咲いていたこと。
彼女の声の震え。
開けるまでにかかった妙な時間。
全部、ひとつに繋がる。
(あー、なるほどね)
可愛すぎて、ほんとどうしよう。
はドアの前で小さく肩をすぼめたように立っていた。
頬はまだ赤く、視線は落ち着かなく揺れている。
その顔を見るだけで、身体がじわっと熱を持つ。